「ノートPCを会社の外へ持っていける?」と検索したのに、「端末の社外持出申請」という資料が出てこない。言葉が違っても近い意味の資料を探す方法の一つが、ベクトル検索です。ただし、意味が近い資料を探せることと、業務上の正解を選べることは別です。得意な場面と、補うべき検索を整理します。

この記事の目次
01

文章を数値の並びへ変えて、近さを比べる

ベクトルは、ここでは複数の数値を並べたものです。文章をその数値へ変える処理を埋め込み、英語でembeddingと呼びます。意味の近い文章が近い位置へ来るように学習されたモデルを使い、質問に近い資料を探します。

この数値は、人が決めた「料金は1、納期は2」の分類番号ではありません。モデルによって表現が異なるため、別の方式で作った質問と資料のベクトルを、そのまま同じものとして比べることはできません。

02

言い換えで探したい資料を、3件で考える

架空の社内資料を三つ用意します。Aは「端末を社外へ持ち出す場合は申請が必要」、Bは「ノートPCの購入費を精算する方法」、Cは「持出申請は不要という旧版の案内」です。質問は「ノートPCを家へ持って帰れる?」です。

単純にノートPCという語だけを探すとBが強く見える一方、意味で探せばAに近づくことが期待できます。しかしCも話題が近いため、旧版を除く条件がなければ候補へ入る可能性があります。これは仕組みを示す架空の例で、実在の埋め込みモデルの順位を測った結果ではありません。

意味の近さだけで、採用しない。質問|普段の言葉で入力。近い資料|言い換えを拾う。条件|版・型番・権限で確認。根拠|正しい資料へ戻る。類似度は正答率ではない。検索段階と回答段階を分けて評価
類似度は正答率ではない。検索段階と回答段階を分けて評価画像を大きく見る ↗(新しいタブで開きます)
関連していても、正解とは限らない
資料質問との関係必要な追加確認
A 持出には申請が必要意図に合う規程適用日と対象端末
B PC購入費の精算PCという単語は一致質問の目的が違う
C 持出申請は不要・旧版話題は近い旧版なので通常検索から外す
03

近さの数値は、正しい確率ではない

近さを比べる指標には、コサイン類似度などがあります。コサイン類似度は、二つのベクトルの向きがどれくらい近いかを見る方法です。たとえば説明用のベクトル[1,0]と[0.8,0.2]は約0.970、[1,0]と[0,1]は0です。これは手で置いた二次元の数値の計算で、文章をモデルで変換した実測ではありません。

類似度0.97だから97%正しい、とは解釈できません。検索の指標や値の範囲は実装によっても異なります。一定の数値だけで採用せず、実際の質問で必要な資料が上位へ出るかを見ます。

04

型番や否定は、ほかの条件でも守る

A001とA002のように一文字違う商品コードを正確に探すなら、完全一致の検索が重要です。「利用可」と「利用不可」のような否定も、話題の近さだけで判断してはいけません。日付、対象部署、利用者の権限などは、検索前後の条件で絞ります。

キーワード検索とベクトル検索を組み合わせる方法を、ハイブリッド検索と呼ぶことがあります。さらに候補を並べ直す再ランキングを使う構成もありますが、部品を足せば必ず良くなるわけではありません。最初は何を取りこぼしているのかを見て、必要な部分を足します。

質問に合わせて補う条件
探したいものベクトル検索で期待すること併用する確認
同じ意味の言い換え表現違いを拾う正解資料との照合
型番A001関連する説明を探すコードの完全一致
利用禁止の規程同じ話題の規程を探す否定・例外条文を読む
今月の料金料金資料を探す版・適用日を絞る
社内の機密資料閲覧可能な候補を探す利用者のアクセス権を守る
05

検索結果だけを、先に採点する

AIの回答まで一度に評価すると、資料が取れていないのか、取れたのに読み間違えたのかが分かりにくくなります。まず、答えの根拠となる資料が検索上位に入ったかを確認します。その後に生成された返答を見ます。

架空の規程なら、持出可否、申請手順、対象外の端末、旧版の日付などで質問を作れます。正解資料、検索で出た資料、取りこぼした条件を表に残します。「だいたい似た内容が出た」だけで成功としないことが、社内で使える検索に近づく第一歩です。

06

最初に用意するのは、大きなデータベースより正解集

まずは代表的な資料と質問を少数選び、どの文書が答えの根拠になるかを人が確認します。保存先や検索基盤を選ぶのは、資料の量、更新頻度、権限、必要な待ち時間が分かってからでも遅くありません。

取り出した段落の前後が足りない場合はRAGのチャンクサイズの考え方へ。検索結果を回答へ使う全体像はRAGとファインチューニングの比較で確認できます。

QUICK ANSWERS

よくある疑問を、ここで。

使い始める前に、気になるところから。

類似度は正答率ですか?

いいえ。近さを表す指標であり、答えが正しい確率ではありません。実際の質問と正解資料で評価します。

この記事の内容をもとにした、編集部からの提案です。
キーワード検索は不要になりますか?

不要にはなりません。型番や固有名詞の正確な一致、日付や権限の条件などと組み合わせて考えます。

この記事の内容をもとにした、編集部からの提案です。
違う埋め込みモデルを混ぜられますか?

基本的には同じ表現として扱えません。モデルを変えるときは、資料側の再変換と検索品質の再評価を検討してください。

この記事の内容をもとにした、編集部からの提案です。
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